賃貸不動産を通じて「住まう」に寄り添うための様々な情報を発信するメディア『YORISOU』が、全国の賃貸不動産会社の皆様に賃貸不動産の面白さや、地域への想いをお聞きする企画「Member Episode」。
今回は東京都台東区に店舗を構える株式会社尾形地所を事業承継した株式会社地場総合研究所代表取締役の本武様に事業承継についてお聞きしました。
大手不動産会社を辞め不動産売買会社を企業
―まず自己紹介をお願いできますか。
福岡県出身で福岡の県立高校を卒業し、大学進学と同時に関東に来ました。高校時代はラグビー部に所属しており、大学でレベルの高い環境でラグビーを続けたいという思いと家計の事情があり国立大学に進学したいという思いで筑波大学に入学しました。卒業後は、森ビル株式会社に入社して4年半ほど在籍しました。森ビルでは初期配属では人事部、つぎにオフィス営業部に配属していただきました。人事部では新卒・中途採用や人事制度構築などを担当し、その後、入社前から希望していたオフィス営業部で六本木ヒルズや麻布台ヒルズをはじめとする自社開発物件の事務所をお客様に借りていただくための新規営業の仕事に携わりました。
―森ビルという好条件な職場を辞めて企業しようと思ったのはなぜですか?
森ビルはビジョンが明確で上司にも同僚にも恵まれてとても素晴らしい会社でした。今でも森ビルが行う開発には興味津々で新しいプロジェクトがあれば必ず足を運ぶくらい好きな会社です。ただ、これは森ビルに限ったことではないですが会社員である以上組織全体の最適化の中で個人の思い通りのキャリアは描けません。例えば不動産開発をやりたいと思っても、部署異動を待つ必要があるので、自分のやりたいスピード感とは合わないと感じました。また自分の力でどんなことが出来るか挑戦してみたいと考えて、思い切って会社を退職し起業することにしました。
継続してお客様と関われる不動産管理に
―その後どのような会社を始められたのですか?
起業するといっても当時から流行っていたスタートアップのような革新的なアイディアや技術があるわけでもありませんでした。不動産が好きで最初のキャリアが不動産業だったので自然な流れで不動産業での起業をしました。最初は地元福岡と東京の2拠点で不動産売買を行う会社を始めました。森ビルでは売買の経験が全くなかったので完全に手探りで0から独学で勉強をして2年くらい必死に経験を積みました。そしてその後に不動産の事業承継や事業投資の会社として地場総合研究所を立ち上げました。
―事業承継をしようと思ったきっかけはなんですか?
最初のきっかけは“ご縁”の一言に尽きます。承継前は不動産売買の事業をしていて売り上げは立つようになっていましたが、単発の売買が多く継続してお客様とお付き合いすることは少なかったことから「つまらなさ」を感じていました。お客様と深く関わっていたい私にとっては売買の仲介を単発で行うのではなく、不動産の管理から不動産を含めた資産の相談までトータルで関わることをやっていきたいと考えが変わっていきました。そんな時に経営者の先輩が「不動産業をやっている同級生が困っているから会ってみない?」と後継者不在に困っている尾形地所の当時の社長の鳥海を紹介してくれました。
―前代表鳥海様と会われていかがでしたか?
最初は僕の知り合いの不動産会社をご紹介できればいいな、というつもりで会ったのですが、お会いしたその日に長く話し込んでいるうちに「本武君がうちの事業を継いでくれないか?」とお誘いを受けました。
不動産管理はやってみたいと思っていましたが、賃貸管理をはじめ賃貸仲介の仕事もまともにやったことがなかったので、自分に事業を継ぐことが出来るのかなと思いました。
不安は浮かんだけれど、次のステップに進みたいと思っていた時にもらったお話で、なにより目の前にいる社長が誠実で信頼できる方に思えたので、急な話でしたがその場で「やります」と即答しました。とはいえ経験がなくいきなり事業承継が出来るわけはないので代表交代前に修行させてもらう気持ちでまずは一緒に働かせてもらうことから始めました。
事業承継して町の不動産会社の社長に
―その場で決められたのですね。その後どういう流れで承継されたのでしょうか?
まずは管理業の実務を習得する必要があったのと、すぐに代表が変わってもお客様も従業員も受け入れられないと思ったので、新入社員という形で働かせてもらいました。電話に出たり、飛び込みのお客様対応をしたり、トラブル対応に走ったり、何でも率先してやらせてもらいました。日中は通常業務に追われていたので営業時間外に経営の引継ぎやお客様との会食に行って代表交代の準備を少しずつ進めていきました。新入社員の動きと社長の動きを両方同時にやることで時間をかけて引継ぎをしていきました。
―事業承継で大変だったことはなんですか?
お客様や協力会社の方、従業員といった前代表の周囲の方に代表交代を認めてもらうことです。とくに管理や賃貸募集をお任せいただいているお客様に信頼していただくことが一番重要だと思ったので前代表と一緒に挨拶にお伺いしました。前代表とお客様との長い信頼関係が続いているので、急に現れた20代の未経験者が信頼していただくにはどうしたらいいか、そこに一番頭と時間を使いました。
―前代表の鳥海様とは現在どのような関係性ですか?
事業承継から一年半ほど経った今でもとても良好な関係です。当初は前代表は代表交代して完全に業務から引退するお話でしたが、お客様のためにも会社のためにも前代表の存在が大きかったので、お願いして現在は相談役として会社に携わってもらっています。仕事のことはもちろん僕のプライベートのことも何でも話せる文字通り“相談役”としていつも頼りにさせていただいています。
―事業承継していかがでしたか?
事業承継はゼロからの企業とは違った難しさがありますが、先代の想いとお客様との関係値を引き継いで事業を発展させていくのはやりがいがあります。
事業を引き継いだことで感謝するべきは僕の方なのですが、前社長にも感謝してもらえていますし、お客様や協力会社さんからあたたかく迎えてもらい本当にありがたいです。そして最近では不動産業を長く続けてこられた先輩方から「後継者がいなくて困っている」と相談を受けるようになりました。また逆に今後会社を事業承継したいという方からも相談を受けることが増えてきました。
いまはそれぞれのご相談を受けてサポートをすることも多くなってきました。
―管理を引き受ける基準はありますか?
物件の管理委託を引き受ける基準は自転車ですぐに駆け付けられる距離に限定させていただいています。
管理会社は”現場主義”であるべきでトラブル対応等で急遽駆けつけることや日常的に異常がないかを見回ることが大事だと考えています。もし得意エリア以外の管理を受託してしまうと様々な立地の管理物件の対応で得意エリアの物件に手が回らなくなってしまう。そのため管理を任せたいと言っていただいている中で本当に心苦しいのですが得意エリア以外のご依頼は自社ではお断りして、信頼できる知り合いの管理会社にお願いするようにしています。
価値のある不動産会社を未来に
―今後の目標は?
地場総合研究所のミッションは「価値のある不動産会社を未来に繋ぐ」ことです。
町の不動産会社はたくさんあるし、なくなっても困らないと思っている方が多いと思いますが、不動産オーナーの方が代々懇意にしている町の不動産屋さんがなくなると何代も続いてきた資産を次どうするかという問題に直面します。また地域に根差して長年続いてきた不動産会社は町の中で目に見えない様々な役割を担っています。そういった価値のある事業を続けてこられた町の不動産会社を未来に繋げていきたいと思っています。
―事業承継する会社は町の不動産会社がメインですか?
そうですね。あとは不動産に関連する事業、例えば内装会社や清掃会社はシナジーを出すことが出来るので対象になると考えています。実際に後継者不在の内装業者さんから相談を受け事業を引き継ぐことが出来ないか検討した事があります。その際はお互いのタイミングの問題もあり事業の引継ぎには至りませんでしたが、今後お互いの希望が合致するようなお話があれば承継をさせていただくこともあるかもしれません。
―初対面で事業を継いでほしいとお願いされるのはどんな方だろうと思いましたが、YouTubeを見ても本武様の人柄の良さが滲み出ていて、実際にお会いしてみても気さくでオープンに話してくださる方なので、こういう人だからこそいろんな方から相談されるのだろうと思いました。本日は素敵なお話をありがとうございました。
株式会社地場総合研究所のホームページ
株式会社地場総合研究所のYouTube
https://www.youtube.com/@hontakeikuma
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