本日は一般社団法人 全国賃貸不動産管理業協会の専務理事であり、神奈川県横浜市に本社を構える株式会社おかだハウジング 代表取締役の岡田 日出則様(以下、岡田さん)に創業のきっかけや、地域への想いについてお聞きしました。
未経験から不動産業界へ…きっかけは自身が体験したお部屋探しの大変さ
― まずは岡田さんのご経歴を教えてください。
私の生まれは東京都大田区鵜の木という地域です。横浜には小学校の頃に引っ越してきました。中学・高校時代はバレーボールに打ち込み、一時は大学に行って体育の教師になりたいと考えていましたが、肩を脱臼して体育ができなくなってしまいました。そこで高校卒業後にコンピューター会社に就職しました。最初は製造部に配属され、その後に通信教育で知識をつけて研究開発本部に異動になりました。研究開発本部の仕事は非常にやりがいのあるものでしたが、1年半ほどその部署で働いた頃に母が腰を壊して、家業のスクラップ回収業を手伝う必要が出てきました。それで会社を辞めて実家に戻りました。しばらく家業を手伝い、その間に結婚もして、おかだハウジングを創業したのは28歳の頃です。
― 創業したきっかけは何だったのですか?
結婚した頃から将来に不安を抱き始めて、家業を一生やり続けるのは自分に合わないかもしれないと悩んでいました。加えて、新婚の頃に夫婦で住む部屋を探したとき、バブルの最盛期という時代もあって借りられる物件が限られ、賃貸を断られるのも日常茶飯事でした。そのときに「部屋を借りるってすごく大変なんだな」と思ったことが、今の事業につながっている気がします。父と話して「実家の仕事もちゃんとやるから、不動産の仕事もやらせてほしい」と頼み、実家の敷地の一画に6畳のプレハブを建てて会社を始めました。
― 創業して仕事はすぐに軌道に乗りましたか。
私は不動産業を未経験で始めたので、何のつながりもなくて最初は収入がゼロでした。主に入居者を斡旋する仕事をしていましたが、せっかくお問い合わせをいただいても扱える物件が少なくて紹介できない状態だったんです。そこでどうしようかと考えたとき、私は「自分の手掛けた仕事が明日も来月も来年も残る仕事がいいな」と思っていることに気づきました。不動産管理は長い期間にわたって自分の携わった仕事が形として残ります。入居した瞬間に離れてしまうよりも、入居後も責任を持てる仕事がいいなと思い、色々な試行錯誤を重ねながら不動産管理の仕事を増やしていきました。
自分の手掛ける物件で人々の新しい生活が始まる喜び
― 未経験で不動産業界に飛び込んで、様々なご苦労があったことと思います。
この地域で商売を始めたときに、私も父もこの地域で何十年と住んできたわけですから、不用意に営業をかけて地域でつながりがある人の仕事を取りたくないと考えていました。そこで「更地を変える分には問題ないだろう」と考えて、駐車場を作りませんかと土地のオーナーさんに営業しました。工事は私の後輩の会社に頼んで安くやってもらい、初めてできた6台分の駐車場には当社の看板も付けてもらえて、純粋に嬉しかったですね。そんな形でずっと会社を運営してきたので、何かをやらせてもらうことが嬉しいし、それで生活ができればもっと嬉しいという、欲のない考え方が基本にありました。実家の家業が終わってから妻と賃貸の部屋の募集図面を作る時間も楽しかったので、それほど苦労とは思っていなかったかもしれません。
― 対価を求めるのではなく、楽しんでいるうちに自然と仕事や収入がついてくるようになったのですね。
ある日ミサワホームさんの営業マンがやってきて意気投合しました。それがきっかけで、30年ほどの間に100棟以上のお仕事をさせていただきました。現在ミサワホームさんのオフィスが入っている6階建てのビルも、私たちが手掛けたもののひとつです。そのビルのオーナーさんは非常に素晴らしい方で、私に不動産業界の多岐にわたることを教えてくださいました。「このビルは岡田さんに託すから、しっかりしたものを作って欲しい」と言われたのを今でも覚えています。またその方の教えでずっと大切にしているのは、「儲けなさい」と言われたことです。賃貸管理業はオーナーさんが得た利益から管理料をいただく商売です。つまり当社が儲かるということは、オーナーさんが儲かるということですから、それに恥じない仕事をしようと強く決意するきっかけになりました。
― 不動産業に携わっていて、喜びを感じるのはどんな時ですか。
色々ありますが、やはり物件を残していけるところでしょうか。当社が管理する物件の近くをふと通りかかったとき、窓を見上げると入居者が入っていて、そこに新しい生活が始まった様子がわかると感慨深いですね。子どもたちの声や家族の声、そういったものが日々存在する空間は本当に幸せだなと思いますし、それを長く残せる仕事にやりがいを感じます。
『快適な住環境をつくりたい』岡田代表の情熱の源泉とは
― 岡田さんは会社の方針として「お客様一人ひとりを大切にする」ことを大事にされていますが、その原動力はどこから来るのですか。
色々な部屋や建物を見てきましたが、大家さんの知り合いのリフォーム屋さんや清掃業者さんに頼むと納得できないことが多くありました。私は性格的に「なんでこんな汚い掃除の仕方なんだ」と思えば自分で掃除しますし、「なんで草を抜いてないんだ」と思えばすぐに草引きをするタイプです。創業当初は、真夏に汗びっしょりになって作業していたこともありました。そんな経験から、自分でリフォームも清掃も手配できるようになれば、もっとこだわった管理ができるなと思いました。
― 快適な住環境を作るためのこだわりが、岡田さんの情熱につながっているんですね。
私自身の管理業務へのこだわりが、内装や共用スペースの清掃業務にまで仕事の幅を広げるきっかけになりました。その頃は行き当たりばったりで広げた感じでしたが、本当に核としてやりたいことがあって、それを実現するにはどうしようかと考えたら不思議と解決方法はあるものです。エレベーターの点検や受水槽の清掃もオーナーさんがメーカーさんに個別に手配することがありますが、それもすべて年間の建物管理費をいただいて受けてしまえば、お互いに手間が減らせます。徐々に年間契約をご提案していき、今は多くの物件でトータルの管理をお任せいただいています。
― 御社の管理業務でこれだけは譲れないと思うポイントはどこですか。
当社は物件に関することはすべて扱っています。但し、分譲マンション以外は一棟単位の管理しかしません。そうでないとトータルの提案ができないからです。部屋が空いたらリフォームの提案、リフォーム契約、入居の相談と、どれも大事な仕事です。また物件の年数が経って古くなると、人間と同じで定期的なメンテナンスが必要です。これはまさに創業当時の私が求めていた「今日の仕事が来年も残っていたらいいな」という仕事の姿です。
オーナー様に寄り添い、様々な角度から物件を見るからこそできる提案がある
― 御社は豊富な経験と実績だけでなく、データを用いたオーナー様への提案も重視しているそうですね。
物件を総合的に見て、リフォームや清掃などすべてを手掛けているからこそ集められるデータがあります。これは部屋を満室にするための重要なポイントにもなっています。どういうときにリフォームをするべきか、周辺の物件の状況はどうか、内見した人はどんな感想を持ったか、すべて蓄積しています。新丸子ではバブルの頃に建てられたワンルームの部屋が飽和状態で、当社とご縁があるオーナーさんの物件も空室がなかなか埋まりませんでした。しかし市場調査や情報の棚卸しをおこない、部屋に家電をつけることにしました。それまで赤字に近い物件でしたが、家賃を上げても全て決まりました。
― やはり普段からオーナー様と細やかに接しているからこそできる対応だと思います。
実は、当社には営業の部署がありません。もちろん創業当初は毎日営業に行きましたが、そのほとんどが紹介で「このオーナーさんが困っているらしい」という話を聞いて尋ねていました。例えば駐車場を作ったとしても、不思議と「この物件の部屋が決まらないんだよね」というご相談をいただきます。ただ、そこを管理しているのが全宅管理の仲間の会社だった場合は、「私も物件を拝見しましたが、こういう部分が気になったので管理会社に相談してみてください」とアドバイスをします。それで「どうしても無理だったらまた私に言ってください」と伝えて、数年経ってまたご相談に来られるケースもあります。
― オーナー様にとって常に最適な状態を考えて行動されている様子が伝わってきます。
今でも私は、オーナーさんのところへ必ず通っています。ありがたいことにお子様の結婚式や、大切なご家族のお葬式に呼んでいただいたこともありました。私は管理戸数を増やそうと躍起になったことは一度もありません。いつでも、自分は何のためにこの仕事をやっているのかという目的を考えて、そのとき最適だと思う提案をしてきました。それが物件の価値を上げることにつながり、家賃も少しずつ上がって更新料が入って、入居期間も長くなっていきます。そうするとオーナーさんが他の物件を持つことができますし、当社の管理する物件も増やせるという良い循環を生むと思います。
不動産業界に向いているのは「何でも自分事として考える正直な人」
― 「不動産業界はこんな人に入ってほしい」というお考えがあればお聞かせください。
私たち夫婦の共通認識として、「嘘は嘘を呼ぶから、どんなことがあっても正直にやろう」というものがあります。それは会社経営も私生活も同じで、弊社の社員にも嘘は絶対つかないように、といつも言っています。ですから不動産業界に入ってきてほしい人も、噓をつかない、真面目で相手のことを自分事として考えられる人がいいですね。
― 不動産管理業において「これだけは大事にすべきだ」という考え方は何ですか。
不動産管理は、自分が言う立場・やる立場だという認識を持つ必要があると思います。「自分がやらなければ誰もやってくれない」と思わなくてはいけないんです。例えばゴミが落ちているとして、それを片付けるのが管理会社なのに放っておいたらいつまでも片付きません。また、電球が切れているなと思っても、入居者に言われないと交換しないのは管理会社の責務を果たしているとは言えないと思います。不動産業界は社会の様々な流れの中で変化し続けています。賃貸住宅は今や、家を買えないから住むというよりも、賃貸に魅力を感じて住む、または何かの目的を持って住む人たちが多くなっていますから、管理する方もプロ意識を持って対応することが大事ですね。
賃貸物件が土地の価値を上げる!地域における不動産業のあるべき姿
― 最後に横浜という地域への想いについてお聞かせください。
地域なくして不動産業はないと、私は常々考えています。以前ある24世帯のアパートをオール電化に建て変えたとき、周りの仲間から「地価が上がったよ」と言われました。賃貸住宅が地域の資産価値を上げることにもつながると思います。また、地域との連携も大事です。これからは、住宅確保要配慮者の人たちと私たちが連携を取りながら、うまくやっていくことが求められる時代です。それは全宅管理の「住まうに寄り添う」というスローガンにも通じる考え方です。管理戸数を増やす方法を重視する方もいますが、私は「100棟の仕事を大手の管理会社がやるのなら、当社は2棟でも3棟でもいいじゃないか」と思います。地域で自分たちが本当に必要とされて、地元の人たちが安心安全に暮らせたら、それに勝るものはないと考えます。
― 本日はお時間をいただきありがとうございました。地域や同業者への愛と、不動産管理業に対する真摯な姿勢が伝わってくる素敵なお話でした。特に「明日に残る仕事がしたい」「嘘が嘘を呼ぶ」といった言葉は物凄く心に響きました。「明日に残る仕事は何か?」「そのために今何をすべきか?」誠実にそして真摯に目的や課題に対して向き合ってきたお話に、不動産管理業を超え働いていく上で学びの多いインタビューとなりました。