【インタビュー】株式会社あんど 家賃保証から福祉まで!多角的な居住支援で住宅確保要配慮者へ安心の住まうを提供

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賃貸不動産を通じて「住まう」に寄り添うメディア『YORISOU』が、全国の賃貸不動産会社の皆様に賃貸不動産の面白さや、地域への想いをお聞きする企画「Member Episode」。

今回は株式会社あんどの西澤代表に、障がい者・高齢者などの住宅確保要配慮者の入居支援を行うに至った経緯や、今後の居住支援のあり方についてお聞きしました。

認知症の祖母が教えてくれた、居住支援の大切さ

御社の事業概要について教えてください。

 

株式会社あんどは、私と友野の共同代表2人で2017年に設立した会社です。私は不動産・建築・後見人などの権利関係を担当し、友野は障がい者支援・介護といった福祉全般を担当しています。2人がそれぞれ持っている不動産分野と福祉分野の知識をあわせ、協働しながら居住のあらゆる困りごとに寄り添っているのが当社の特徴です。

社内には居住支援チーム・不動産チーム・家賃保証チーム・福祉チームの4つがあります。居住支援チームでは、一般の物件に入るのが難しい方へ居住支援付き住宅を紹介したり、賃貸住宅への入居に係る住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援等を行います。不動産チームでは、物件探しや入居のお手伝いに加え、保険や保証まで含めた入居中・入居後の生活を支えます。

家賃保証チームは、家賃保証会社と提携して緊急連絡先の無い方や、障がいを持つ方や高齢者が使える保証制度を提案します。最後に福祉チームでは、入居後に病気や高齢になった場合の対応をします。地域の福祉サービスと入居者とをつなぎ、社会福祉を使いながら生活できる状態へと導きます。

 

 

あらゆる方向から住宅確保要配慮者を支えているのですね。西澤さんはなぜ居住支援の道に進もうと考えたのですか。

 

最初のきっかけは、私の祖母が認知症になった際に弁護士の先生へ後見人をお願いしたことです。弁護士はお金の管理はできても、後見人がすべき「身上監護」の部分(後見人が被後見人の住まいや施設・医療・介護、生活や身の回りの目配りや支援などを行う行為)がカバーしきれないことがわかりました。祖母は長く入院が続いており、弁護士は身上監護の部分について思うようなサポート行う事が出来ず、また私たちも遠方に住んでいて「どうやって支援すればいいのだろう」と悩んだ経験が後見人制度の理解を進める事となり、その先に繋がる居住支援に関心を持つことへつながりました。

そんな時に東京大学で市民後見人養成講座があることを知り、受講しました。そこでは士業の後見と市民後見の違いなど多くの学びがありましたが、不動産分野の内容についてさらに詳しい情報が提供されると良いと感じました。私は主人とともに長く不動産会社を経営してきたため、東京大学に後見には不動産の知識が不可欠であることをお伝えし、今では後見人制度をより広く普及するための共同研究にも取り組み、平成27年度より現在まで市民後見人養成講座の「不動産の管理」についての講師を務めさせて頂いております。

様々な事情があって賃貸物件を借りられない問題は多くの人が抱えていますが、世の中のサポートはまだまだ不足しています。けれども、もし後見人がいれば契約行為ができ、何か問題が起きたときも支援が可能になる。誰かがこれをやらないとダメだと思いました。まだ、後見が必要ではないが、様々なサポートがあれば、地域で暮らし続ける事が出来るのではないかと考え、障がい福祉に長く携わってきた友野を誘い、株式会社あんどを設立しました。

 

「チームで見守り、手を差し伸べる」株式会社あんどの居住支援事例

御社では様々な課題を持つ方へ居住支援を行っているそうですが、認知症を発症した場合ではどのような対応をしていますか。

 

入居後に認知症を発症した高齢女性の例があります。入居時は50代で、健康に問題はなく家賃もきちんと支払っていました。しかし、近年はご近所とのトラブルが増え、不動産会社は「認知症ではないか」と考えたものの、女性に身寄りがなく対応方法がわからないというご相談でした。

認知症を発症して契約の締結・解除ができなくなるケースは非常に多いです。家賃を滞納した人に連絡を取ると施設に入っていて、家賃の精算ができない例もよく見られます。生活保護者の場合は自治体のケースワーカーが入りますから、解約のサポートができます。しかし生活できる程度のお金がある人は、自治体の支援が行き届かないことも多いのです。

当社は居住支援法人として身寄りがない人には当社が緊急連絡先となったり、また、本人にお会して、困っていることに寄り添います。第三者であることがとても大きなポイントで、家賃保証会社や管理会社が対応してしまうと「自分の住む場所が奪われるのではないか」と身構える人もいます。けれども、居住支援法人ならお話をしてもらいやすく、プロと一緒に問題解決に向かえるメリットがあります。

 

他にも居住支援から良い方向へ変化した事例があれば、ぜひお聞かせください。

 

過去には自殺未遂のケースに対応したこともあります。上場企業勤務を経て起業した30代の男性は、詐欺に遭い何億もの負債を抱えてしまいました。返済ができないことを思い悩み、自殺未遂を起こして救急車で運ばれたそうです。命は助かったものの後遺症が残り、それまで住んでいた物件の家賃が払えない、借金があるため家賃保証も借りず、引越す事すら出来ない、八方ふさがりの状態でした。

そこで私たちが本人と話し、就労・住まい・生活の立て直しの3つ支援を行いました。就労出来るまでの意欲を持つことが出来、新たな会社へ就職することが出来ました。住まいは当社の一時避難的な住居に入ることになりました。一緒に寄り添い支える事で、今では心も身体もかなり回復して前向きに進み始めています。

 

管理会社の目線で見れば、もしも入居者が認知症になった場合もプロが間に入って居住支援をしてくれるのは大変心強いですね。

 

こういったトラブルで、管理会社が直接認知症となった入居者へ対応する事により、ますます事態が悪化したり、必要な支援が届かない場合はあります。まずは当社のような居住支援法人に相談してほしいですね。

当社は全国居住支援法人協議会に加盟しており、協議会の設立当初から運営委員と研修委員長を務めているため、全国の居住支援法人と強いつながりがあります。近年では地域ごとに居住支援法人や福祉事業者のチームを作ることに取り組んでおり、地方で問題が起こったときも現地の居住支援法人・福祉事業者と連携し、チームで困っている人に寄り添う体制をとっています。

高齢化社会が不動産会社に与える影響

―20244月に「改正障がい者差別解消法」が施行され、不動産会社にもあらゆる人へ分け隔てなく住環境を提供することが求められるようになりました。この法改正で居住支援はどのように変化すると思いますか。

 

以前は障がいの有無などで「この物件には入居できません」とお断りする事例が横行していましたが、これからは差別として罰則対象になる可能性があります。誰もが安心して暮らせる社会のために必要な法律である一方で、不動産会社側はどこまで対応すべきなのか戸惑う場面も多いでしょう。

そんなときに第三者である居住支援法人に間に入ってもらえば、不動産会社のリスクヘッジにつながります。問題は多岐にわたり、個別対応を求められるケースも多いため、不動産会社と居住支援法人がタッグを組んで取り組むことが重要です。

建物の管理は不動産管理会社、お金の管理は家賃保証会社、そして入居者の管理は居住支援法人という形が実現できれば、「ここには住めません」と言わなくて済みます。入居できる人が増えると不動産会社の収益が安定し、空き家を減らすことができます。不動産会社は慈善団体ではなく、利益を生んで経済を回すのが役目ですから、利益と入居者の安心につながる支援とをどう両立するかを考える必要があります。

 

高齢化社会が今後ますます進行する中で、不動産会社もビジネスモデルを見直すべき時期に来ているということですね。

 

日本は2050年(26年後)には人口のおよそ50%以上が高齢者と障がい者が占める時代を迎えると言われています。この問題に対応するため、国は空き家の増加問題の解決と合わせて、「どんな人も住みたいと思ったところに住める状態」の実現を目指しているのです。現在も様々な経済的支援や補助金が国から発表されており、今後も状況の変化に注視しながら対応を考えなくてはなりません。

当社では居住支援付き住宅を契約するすべての方に、残置物処理と死後事務委任契約をあらかじめ結んでいただいています。どちらも契約時に費用はかかりません。急な病気などで本人が亡くなった後、荷物の整理をどうするのか、諸々の契約はどう手続きすべきなのか。健康なうちから万が一の事態を考え、話し合っておくことで、その様な状態になった時に、必要と思われる実費費用等について共に考え、整理を行えるような仕組みにしていく事が、日本ではまだ一般的ではありませんが、いざというときに慌てずに済み、賃貸住宅の解約や退去についてもスムーズに行えるようになります。

 

手頃な価格で利便性と安全を両立する「血流認証ゲートシステム」とは

御社では居住支援付き住宅の新しい設備として、居住者の見守りと扉の開錠を両立できる「血流認証ゲートシステム」を導入したそうですね。

 

この度、バイオニクス社の総代理店として業務提携をしました。バイオニクス社の「血流認証ゲートシステム」は、指の血流を感知して扉の鍵が開くシステムです。従来の鍵で開けるシリンダータイプは、高齢者や障がいのある方が鍵を回すのが難しくなる場合がありました。また、カードキータイプも紛失・盗難の恐れがあります。その点、血流認証なら盗難や複製の心配は不要で、小さな子どもから高齢者まで簡単に使えます。

「血流認証ゲートシステム」には見守り機能もあり、帰宅時にアプリへお知らせが届いたり、24時間のうちに扉からの出入りがない場合にアラームが通知されます。居住支援付き住宅では当社がアラーム対応を行っています。入居者に連絡が取れない場合は現場へ行って安否確認を行うか、遠隔での開錠も可能なため、体調不良で動けないといった不測の事態も早めに対処できるメリットがあります。

 

スマートロックは高級住宅に付いているイメージが強いですが、血流認証ゲートシステムはコスト面でもメリットがあるのでしょうか。

 

今までのスマートロックは、セキュリティがしっかりしている物は、取り付け費用に十数万円、毎月の利用料も高額であったり、お手頃なスマートロックは両面テープで固定してある簡易的な物しかありませんでした。しかし血流認証ゲートシステムは、セキュリティが万全である上に、何も持たなくても良いという利便性もあるにもかかわらず、2万円ほどで取り付けでき、毎月の利用料は保守・修繕込みで2,000円程度で利用出来ます。

ゲートシステムの電池残量が少なくなったときも通知が届き、急に電池が切れて家に入れないという心配もありません。会社や施設・保育園などにも幅広く導入可能で、除菌にも配慮した装置となっています。退職した社員の指のデータを消せばロック解除されることもなく、安全性が向上します。手に何も持たない利便性と安心感が両立していることから、不動産会社にとっては「当社の物件に住めば最新のセキュリティシステムが利用出来ます」といった大きなアピールポイントになるのではないでしょうか。

誰もが安心して暮らせる社会を実現するために

御社が取り組む居住支援について、今後進むべき方向性や展望をお聞かせください。

 

居住支援法人は、一般的にボランティアが多い業界です。ボランティアで支援をしている方は素晴らしい志をお持ちだと思いますが、取り組みが途中で終わるケースも少なくありません。ですから当社は会社組織にこだわり、利益を上げられる状態を目指そうと思いました。何も問題の無い状態で入居されても、誰しもがいつかはどれかの属性になっていきます。

若者から高齢者まで「入居するときは居住支援もセットで受けられる」状態を社会に浸透し、誰もがいつでもどこでも居住出来る社会になる事が当社の願いです。

これは不動産会社にもメリットがあって、入居者が病気になったり高齢化した場合でも、居住支援法人とのパイプができていればいつでも相談できます。いざというときに福祉事業者、民生委員、自治体の支援などとつながる体制があれば、不動産会社が障がいや病気の有無で入居を断る必要がなくなり、多様な人を受け入れる社会になっていくと思います。

今までの居住支援は、一般の入居者と「住宅確保要配慮者」を区別して検討してきました。しかしこれからの社会では、誰もが「要配慮者予備群」です。その前提のもとに、配慮が必要ないときから準備をしておくことが求められます。今後も当社がハブとなって入居者の変化をいち早くキャッチし、地域のネットワークを通じて迅速な対応ができるよう、全国の居住支援法人との絆をより強くしていきたいと思います。

 

これから高齢者が増える日本社会において、居住支援はなくてはならないサービスです。全国規模で志高く居住支援に取り組む西澤さんの熱い想いが伝わってくるインタビューでした。本日は素敵なお話をありがとうございました。