【インタビュー】「賃貸不動産経営管理士」資格で広がるキャリアと信頼

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賃貸不動産を通じて「住まう」に寄り添うメディア『YORISOU』が、全国の賃貸不動産会社の皆様に賃貸不動産の面白さや、地域への想いをお聞きする企画「Member Episode」。

今回は一般社団法人 賃貸不動産経営管理士協議会の結城統括課長に、賃貸不動産経営管理士の資格概要や現場における活用の可能性についてお聞きしました。

「賃貸不動産経営管理士」資格とは

-「賃貸不動産経営管理士」とは、どういった資格ですか。

 

賃貸不動産管理に関する知識や技能、倫理観を持った専門家としての能力を活かし、管理業務全般における管理の適正化・健全化への寄与を目的とする資格です。賃貸不動産の管理を適切に行い、不動産を所有するオーナー様の資産を有効活用し、居住者様に対しては安心・安全な物件管理を提供するという重要な役割を担っています。賃貸不動産経営管理士になるためには、毎年1回(11月)に実施される試験に合格し、資格者登録を行う必要があります。

 

-資格ができた背景についてお聞かせください。

 

不動産業界においては、「宅地建物取引業法」によって不動産取引の公正化を定め、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」では分譲マンションの管理の適正化を推進してきました。しかし、賃貸不動産の管理については長らく法規制やルールが存在しない状態でした。賃貸住宅は日本の住宅戸数のうち4分の1以上を占めるにもかかわらず、退去時の原状回復をはじめとするトラブルが多々発生していたのです。

そこで、賃貸管理の質を高めるために専門的な知識を持った人材の輩出・育成をしようという流れが生まれ、各不動産業界団体が資格を立ち上げました。以前は、(公財)日本賃貸住宅管理協会、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会、(公社)全日本不動産協会がそれぞれ独自に賃貸不動産管理の資格を運用していた歴史があります。これを業界統一資格として位置づけるために賃貸不動産経営管理士協議会を設立し、賃貸不動産経営管理士資格を創設しました。

 

-当初は民間資格としてスタートし、2021年に国家資格になったそうですね。

 

賃貸管理に関する法律がない状態を受けて、2011年には国土交通省が「賃貸住宅管理業者登録制度」という任意制度を設け、賃貸管理の適正化を図ろうという流れが生まれました。また2018年には「かぼちゃの馬車事件」として知られるサブリースの問題が発生し、これをきっかけとして賃貸管理やサブリースの規制を設ける必要があるということで、2021年に賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、賃貸住宅管理業法)が施行されました。その動きに伴って賃貸不動産経営管理士は法律に規定される国家資格に認定されています。

 

管理業だけじゃない!賃貸経営のサポートも担う賃貸不動産経営管理士

-「賃貸不動産経営管理士」の現場での役割にはどのようなものがありますか。

 

賃貸住宅管理業法では、賃貸住宅の管理業務を行ううえで事業所ごとに1名の「業務管理者」を置かなければならない、という決まりがあります。この業務管理者になる要件として、賃貸不動産経営管理士の資格取得が定められています。

業務管理者の行う仕事内容は、主に賃貸管理業務の管理・監督です。オーナー様へ重要事項を説明する、契約書を交付する、建物の維持・修繕や預かり家賃などの金銭管理、定期報告といった業務について、適正に管理・監督する役割を担います。

法律に定められた役割に加えて、賃貸不動産経営管理士という名の通り、賃貸経営においてオーナー様をサポートする役割も期待されます。賃貸経営の事業計画・予算計画や建物の修繕計画の立案はもちろん、資金繰りの面も含めたコンサルティングができることも重要です。法令で定められた業務のみに留まらず、賃貸管理のプロとして多岐に渡る業務を実践に移せる資格者が今後一層求められると考えます。

 

 

-賃貸管理業務だけではなく、オーナー様の賃貸経営をサポートする役割も担うのですね。試験を受けるために必要な要件はありますか。

 

試験はどなたでも受験いただけます。ただし、合格後に賃貸不動産経営管理士として業務を行うためには資格登録が必要です。登録にはいくつかの要件があり、2年以上の賃貸管理に関する実務経験がある方、もしくはその実務経験の代わりとなる実務講習を修了している方が対象です。

 

学生や他業種も注目!幅広い受験者が資格に挑戦する理由

-「賃貸不動産経営管理士」は受験者が年々増加しているそうですが、主にどのような方が資格を取得していますか。

 

受験者として最も多いのは、不動産管理会社で働く従業員の方です。また、不動産仲介や売買を行う会社の従業員が受験する例も増えています。仲介・売買業者が主な事業でも、管理をあわせて行っている会社も多いため、実務に活かせるのではと思います。

私が聞いた話では、最近は入居希望者様から入居後の管理に関する質問をされることが多いそうです。退居時にどんな手続きをするのか、敷金はどうなるのか、そんな疑問に対して自信を持って答えられないとお客様の信頼は得られません。お部屋の成約につなげるためにも、物件の管理に関する知識も深めたいということで賃貸不動産経営管理士を取得しようと考える方も多いです。

 

-不動産業に従事する方以外も受験するケースはあるのでしょうか。

 

金融や保険関係、信託銀行にお勤めの方は不動産を扱うことも多いため、より専門的な知識を身につけてお客様の信頼を得たいと受験する方もいます。専門知識があればお客様とのやりとりや提案の質も大きく変わってくるからです。損害保険や不動産関係の保険業に携わる方なども含め、近年では金融業界にも支持されて受験者が増えていると感じます。

さらに、オーナー様が受験するケースもあります。管理を委託しているオーナー様でも、委託先にすべてお任せではなく「どんな管理をやっているのか自分できちんと理解したい」と考える方が増えた印象です。

賃貸住宅管理業法ができる契機となったサブリースの問題をはじめ、オーナー様の知識不足によってトラブルが発生する場合も少なからずあります。委託した管理会社がどんな業務をしているか、法律を遵守した管理がなされているのか、それらをオーナー様が理解すれば適切に管理会社を選ぶことにもつながると思います。

 

-様々な属性の方が受験しているのですね。不動産関連の仕事に就きたい学生の皆さんにも良さそうです。

 

学生の皆さんが不動産関連の資格として一番に思い浮かべるのは、宅建士だと思います。ただ、不動産売買はどうしても数字と背中合わせの職業であり、そこが懸念となって不動産業界に入ること自体をやめてしまう学生も多いのではないでしょうか。

一方で、管理会社の業務はオーナー様との定期的なコミュニケーションや入居者様のサポートが主で、「売上を追いかけたくはないが不動産の仕事はしてみたい」と考える学生にも非常に合う仕事です。

不動産管理会社は、まだ学生の就職先の選択肢としてすぐ名前が挙がる先ではないかもしれません。賃貸不動産経営管理士の資格を通してぜひ仕事内容を知っていただきたいですし、宅建士に比べると合格率的にはまだ取りやすい資格なので、就職活動の武器にもなり得ると思います。

 

不動産業のプロフェッショナルを目指して資格取得で広がる活躍の場

-「賃貸不動産経営管理士」を取得するメリットは何でしょうか。キャリアの広がりや現場で活躍している事例などがあればお聞かせください。

 

キャリアの面では、不動産会社の店舗で支店長になる要件として、今まで宅建士の取得が求められてきました。そこに賃貸不動産経営管理士を加えて、ダブルライセンスを昇格条件にする会社も増えているようです。賃貸不動産経営管理士は日常業務にも十分活用できるものですから、不動産会社の認識がだんだん変化し、この資格が浸透してきているのかなと感じます。

活躍の事例としては、やはりオーナー様や入居者様からの信頼獲得ができる点が一番大きいですね。名刺に書いてあるだけで、オーナー様も「資格を持っているんですね」と話を進めやすくなったという喜びの声を聞きました。宅建士と2つ並んでいるとなおさら強いですね。金融関係などでも、取引先が管理会社の場合に資格があることで信頼関係の構築に役立っている事例があります。 宅建士は仲介・売買など契約の入り口部分を担うものですが、「賃貸不動産経営管理士」は物件に住む入居者様や物件のオーナー様に長きにわたり寄り添える資格ですから、ダブルライセンスでそれぞれのニーズに応えることはとても重要です。

今は宅建士と賃貸不動産経営管理士、どちらか片方だけでは足りない時代になっているという印象を持っています。2つを持って初めて、真の意味で不動産の取引や不動産賃貸管理業のプロフェッショナルになれるのではないでしょうか。「不動産業のプロを目指すなら、2つの資格が必要だ」という認識がこれからのトレンドになっていけばいいなと思います。

 

 

-「賃貸不動産経営管理士」の資格は、女性の比率が高いそうですね。それだけ管理会社の現場で活躍する女性が増えているということでしょうか。

 

結婚・出産といったライフステージに応じて働き方が変化する女性にとって、不動産管理業は復帰しやすい業界だと言われています。一度は現場から離れたとしても、また働きたいと思ったときに資格があれば復職が有利になる可能性も高いですね。

不動産会社からよく聞くのは、入居者様が部屋を決める際の最終決定権は、多くのカップルで女性が握っているという事実です。その際に女性の「こんな設備があったらいいな」という目線に寄り添い、洗面所にタオル掛けを設置するとか、小さな棚を備え付けるなどの簡単な部屋のリフォームを行って、空室が一気に埋まった事例もあったそうです。

同じ女性の目線で入居者様やオーナー様にサポートと提案ができるという意味では、管理会社において女性の有資格者はなくてはならない存在でしょう。ぜひ今後も女性を含めた様々な受験者に資格を受験いただき、さらに活躍の幅を広げていただきたいですね。

 

賃貸不動産経営管理士の資格が切り拓く、不動産管理業の未来

-「賃貸不動産経営管理士」は業界内でも認知度を上げつつありますが、この資格が目指す未来の姿についてお聞かせください。

 

賃貸住宅管理業法の成立をきっかけに賃貸管理業が確立され、その業務を担う管理会社や有資格者の重要性がますます注目されています。宅建業と管理業の業務領域が明確となり、これまでの「宅建業の延長にある管理業」ではなく「お客様に長く寄り添う管理業」として質の高い業務が求められていくはずです。その中で、賃貸不動産経営管理士がさらに活躍の場を広げていけることを期待しています。

 

-最後に、これから受験を希望する方へのメッセージをお願いします。

 

賃貸不動産経営管理士はどなたでも受験できる資格です。不動産管理会社で働く方はもちろん、就職活動を控えた学生の皆さんや、不動産業のお客様を多く抱える業界の方など、それぞれの立場できっと役に立つ知識が身につけられると思います。

現在出版しているテキスト「賃貸不動産管理の知識と実務」は、賃貸住宅の管理業務を体系的にまとめた書籍で、資格取得後も業務に役立てられるよう制作したものですので、受験される方はもちろん、現在、賃貸管理業に従事されている方にも大変おすすめです。

また、合格の可能性を高めるために「賃貸不動産経営管理士講習(試験の一部免除)」を活用するのも良い方法です。特に初学者の方には「賃貸不動産管理の知識と実務」の内容が難しい場合もありますので、講習を通じて理解が深まるのではないでしょうか。講習をすべて修了すると、賃貸不動産経営管理士試験において、修了年度とその翌年度の試験50問のうち、5問が免除されます。試験合格者の約半数がこの講習を受けていますので、ぜひ活用してください。

 

 

-今までは「不動産業界の資格といえば宅建士」という風潮が強かった中で、「賃貸不動産経営管理士」という新たな選択肢が生まれたのはとても良い流れだと思います。これからの不動産業界全体の変化を促す力を秘めた資格だと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。