4月12日(金)、全国賃貸不動産管理業協会は、株式会社リクルートのSUUMOリサーチセンターと、『賃貸管理』『売買流通』における⼈材採⽤・定着率向上に関しての情報共有会を開催しました。
概要
■日 時 2024年(令和6年) 4月12日(金)10:00~12:00
■内 容 産業別・業態別に見る 『賃貸管理』『売買流通』における ⼈材採⽤・定着率向上に関する考察についての情報共有会
情報共有会の様子
今年も賃貸市場のオンシーズンが終了し、多くの地域で人手不足の問題が深刻化し、声が上がっています。情報共有会では、賃貸管理業務と売買流通に携わる方々を対象に、他業種と⽐較したデータを踏まえながら、人材採用と定着の課題について議論を交わしました。業界の課題やその原因について明らかにすることで、解決策を見出すための基盤を築こうという狙いが込められています。
会議では、女性経営者の不足が業界全体の課題の一つとして取り上げられました。また、出産や家庭との両立が難しいとされる点も、特に女性従業員の定着率に影響を与えている可能性が指摘されました。
リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)2022」に加え、SUUMOリサーチセンターで実施した、「不動産業・住宅業の就業実態調査2023」の集計・分析結果をもとに、全産業のデータから見た際の不動産業界の立ち位置などが詳しく共有されました。
会議は以下の流れで進められました。
- 不動産業界と他の業界を比較し、全体像を把握
- 賃貸管理と売買流通の両者を比較
- 離職意向や離職の要因について
本記事では会議の概要をまとめたものをご紹介いたします。
他業種から見える不動産業界の転職動向と労働環境の特徴
不動産業界は他業種と比較してどのような特徴があるのでしょうか?業界の立ち位置や転職動向、労働環境などが詳しく共有されました。
- 不動産業界の特徴
不動産業界では、従業員100名未満の企業が6割弱を占め、比較的コンパクトな企業が多い一方、平均年収は全産業と比較して高い傾向がある為、ここが業界の魅力となります。
一方で転職者の半数は他業界へ流出しており、特に卸売・小売業や建設業、製造業に流出しています。
- 転職意向要因
データによると給与が一定基準値よりも低い、土日休日である割合が低い、あるいはハラスメント・人間関係・評価実感・キャリア充実度などの項目で満足度が低い場合に、転職意向が高い傾向があります。
- 平均年収と転職の動向
不動産業界の平均年収は、他業種と比べても高い水準にあります。しかし、転職の流出先である製造業や建設業と比較すると、両業種の中間程度の年収水準に位置しています。
- 労働時間と職場の状況
パワハラや怪我などの発生率は他業種と比較して高くはありません。また、51時間以上の長時間労働をしている人の割合も他業種と比較して変わらないものの、51時間以上の長時間労働している場合には、精神的な負担を抱える人の割合も高くなっています。
- 人間関係満足度と転職意向
人間関係の満足度による転職意向の傾向については、他業種と大きな違いは見られません。職場の人間関係に不満足で転職意向を持つ人は6割程度いますが、他業種と比較して特に顕著な差はありません。
- 年齢別の評価実感
不動産業界における年齢別の評価実感を見ると、一部に改善の余地が見られるとの示唆がありました。
- キャリア充実度と転職意向
不動産業界ではキャリアの見通しや職務経歴の満足度は製造業と同等の水準であり、他の業界に劣らない評価を受けています。
総じて、不動産業界では給与が高く、転職意向も高いという特徴がありますが、他業界と同じく、労働環境や評価制度には改善の余地があるようです。
賃貸管理と売買流通の特徴比較と転職意向
- 賃貸管理と売買流通の特徴比較
1.1 平均年収と休日制度の違い
賃貸管理と売買流通の間には、平均年収や休日制度に顕著な違いが見られます。賃貸管理業界では平均年収がやや業界平均未満ではありますが、週末の所定休日割合は5割以上と高い傾向があります。一方で、売買流通業界は平均年収が業界平均を上回りますが、週末の所定休日割合は4割未満となっています。
1.2 転職意向の比較
売買流通業界は高い平均年収にも関わらず、転職意向が比較的高い傾向があります。一方で、賃貸管理業界では平均年収がやや低いものの、転職意向が売買流通に比べて低いことが特徴です。
- 離職意向が高い層の特徴
2.1 賃貸管理と売買流通での共通点
両領域とも他業界と同様に、20代以下の若手層や低年収層において、転職意向が高い傾向が見られます。
2.2 転職意向に影響する要素
①給与が低い②労働環境の柔軟性・休日制度③ハラスメントが横行④人間関係がよくない⑤正当な評価が得られない⑥キャリア充実度が低い、この六つの要素が揃うと、従業員の仕事満足度や生き生き度が低下し、転職意向が高まる傾向があります。
不動産会社領域別に見る転職意向とその要因
不動産業界における転職意向は、給与や福利厚生、労働環境、人間関係、キャリアの充実度など、多岐にわたる要因によって影響を受けています。特に、「賃貸管理」と「売買流通」の領域においては、それぞれ独自の要因が転職意向に大きな影響を与えています。
- 給与(福利厚生)
両領域とも一定の年収以上になると、離職意向の低い⼈の割合が⾼くなります。
給与以外で求められるサポートとして両領域とも福利厚生において、住宅手当や資格取得支援金などが求められていることが挙げられました。
売買流通では歩合制が一般的ですが、歩合制の有無によって、転職意向に優位差は認められませんでした。しかし、歩合制の導入がある⽅が仕事の満⾜度が高まる可能性があります。
会議では歩合制が辛くて営業成績が伸びず辞めてしまう人もいることや、賃貸管理にも歩合制をいれたらどうか等の意見が挙がりました。
【対策】他社事例として、会社の成長と年収アップへの期待感を盛り上げる社内風土や、資格取得による追加手当や自己研鑽に対する研修・経費の補助制度が挙げられました。
- 労働環境の柔軟性と休日
「賃貸管理」では、土日の所定休日の割合が高く、過半数以上が土日を休日として取得しています。転職意向の高い層では、休暇制度やフレックスタイム・スライド勤務制度など柔軟な働き方に対するニーズが高い傾向があります。女性の30代や40代だけでなく、男性の30代も時短勤務制度に対する要望が高まっています。これは、仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境が求められていることを示唆しています。
一方、「売買流通」では、土日の所定休日の割合は賃貸管理に比べて低く、僅か26.5%です。転職意向の高い層では、柔軟な働き方やリフレッシュ休暇、育児・介護のための制度を求める傾向が見られます。特に、勤続年数が5年未満の層では育児休暇や副業に関心が高いことが報告されています。このような要望が高まる背景には、業務の多忙さや有給休暇の取得の難しさが影響している可能性があります。
【対策】他社事例では、部署異動や働き方のコース選択などの制度と、実際に制度を利用した先輩社員の働きかけが、柔軟な働き方を後押ししています。
- ハラスメント
両領域とも 従業員数の増加に伴い、ややハラスメントが発生する傾向があることが示唆されました。 また、ハラスメント当事者以外に、身近で見聞きした従業員の離職意向が、当事者同様に高まることも報告されています。
【対策】他社事例として、ハラスメントの発生をアンケートを通じ、社内システムで経営陣がモニタリングする取り組みがあります。
- 人間関係の満足度
両領域とも転職意向の⾼い層は、⼈間関係に対して満⾜していないと回答する割合が、転職意向が低い層と⽐較して⾼くなっています。
「賃貸管理」では、従業員が上司や同僚との関係において「仕事に対する個人の意思や考えを尊重してもらいつつ、フィードバックをしてもらえる」ことや、「相談ができる」「協力を得られる」環境を求めています。これは、コミュニケーションや協力関係の円滑さが転職意向に影響を与えることを示唆しています。
「売買流通」でも、転職意向の高い層が上司や同僚との関係性に関して同様の要求を持っています。具体的には、上司からのフィードバックや個人の意見を尊重してもらえること、周囲の人々を頼れる環境や相談ができる関係性が重視されています。
【対策】他社事例では、ランチミーティングや1on1面談、働くママさん計画など、社内コミュニケーションや支援プログラムの充実が挙げられます。
5.評価実感
両領域とも、転職意向の高い層は自身の働きに対して正当な評価を得ていないと感じている割合が比較的高いことが報告されています。これは、従業員が自身の能力や貢献が適切に評価されていないと感じており、不満や不安定感を抱いていることを示唆しています。
【対策】他社事例として、職能や昇格基準の提示や1on1ミーティングを通じたコミュニケーションの強化が挙げられます。
- キャリアの充実度
「賃貸管理」のキャリア充実度: 賃貸管理では、特に転職意向の高い層において成長実感が低い傾向が報告されています。これは、クレーム対応などの業務特性や、日々の業務が単調で成長を感じにくいことが挙げられ、仕事の内容が充実していないと感じている可能性があります。
「売買流通」のキャリア充実度: 売買流通では、成長実感が高い人が多い一方で、“将来のキャリアパスを描くこと”を⽀援する⾵⼟・制度の需要や、特に勤続年数が5年未満の層で研修ニーズに関する要求が高まっています。業界の基礎知識や資格取得に関する研修ニーズが高いことが特徴です。
【対策】他社事例では、社内資格制度によって、⼊社後10年までの成⻑のロードマップを設定する取り組みや、管理職による部下の育成を促進する役割定義など、キャリア支援プログラムの充実が示されています。
まとめ
不動産業界の転職動向に関する分析を通じて、業界内の課題やその原因が明らかになりました。
これらの課題に対処するには、業界全体の意識改革や制度改善が不可欠です。特に、女性や若手層に対するサポートやキャリア形成のサポートが重要です。また、働き方の柔軟性や労働環境の改善を通じて、従業員の生活と仕事のバランスを重視する必要があります。
これらの取り組みが、業界全体の持続可能な発展と従業員の満足度向上につながることが期待されます。不動産業界がより魅力的な職場環境を提供し、将来の人材確保に向けて積極的な改革を行うことが重要です。